新百合ヶ丘のイオン横にある巨大な球体は何?正体は彫刻作品「アイボール」

新百合ヶ丘駅南口を歩いていると、イオンスタイル新百合ヶ丘と新百合ヶ丘郵便局の間に、ひときわ目を引く大きな黒い球体のようなものがあります。
「これは何?」
「昔からあるけれど、何のためのもの?」
「巨大な目玉のようにも見える……」
と思ったことがある方も多いのではないでしょうか。
調べてみると、このモニュメントにはきちんと名前がありました。
その名も、「アイボール」
川崎市出身の彫刻家、井上麦(いのうえ・ばく)さんが制作した彫刻作品です。新百合ヶ丘駅南口の街づくりの歴史を知ると、この場所に「アイボール」がある理由も見えてきます。

巨大な「目玉」の正体は「アイボール」

写真のモニュメントは、井上麦さん作の「アイボール」です
場所は、
・新百合ヶ丘駅南口側
・イオンスタイル新百合ヶ丘の横
・新百合ヶ丘郵便局の前
・ペデストリアンデッキの下
にあります。
2026年に公開された新百合ヶ丘駅南口の街づくりに関する資料でも、現在この場所に残る作品として「アイボール」が紹介されています。 (note(ノート))
名前を知ってからあらためて見ると、中央の丸い部分を含めて、確かに巨大な「眼(eye)」を思わせるデザインになっています。

「アイボール」を作った井上麦さんとは?

作者の井上麦さんは1956年、神奈川県川崎市生まれの彫刻家です。
文化庁の「アートプラットフォームジャパン」でも、活動領域は「彫刻」と紹介されています。 (Art Platform Japan (APJ))
井上さんの経歴を見ると、
・1956年:川崎市生まれ
・東京藝術大学で彫刻を学ぶ
・1981年:東京藝術大学大学院彫刻科修了
・神奈川県美術展、川崎市美術展などで受賞
・その後、国内だけでなくブラジルやアルゼンチンなど海外でも活動
という経歴を持っています。 (bakuinoue.wixsite.com)
山梨県立美術館は井上さんの作品について、石などを用い、植物や動物の特徴を抽出した生物的な形が特徴で、単純化された造形の中に「優しさやユーモア」を感じさせると解説しています。 (JMApps)
新百合ヶ丘の「アイボール」も、無機質な幾何学作品というより、どことなく生き物を感じさせる独特な形をしています。

実はこの場所、昔は「水」が流れていた

「アイボール」だけを見ると独立した彫刻のように見えますが、もともとの新百合ヶ丘駅南口は、水と緑を組み合わせた大規模な空間として設計されていました。
当時の南口には、
・東西方向に「水の軸」
・南北方向に「緑の軸」
という考え方が取り入れられていました。
「水の軸」は多摩川の流れを表現したもので、デッキ上から流れ出した水が滝となり、デッキの下を通って、全長約160mの水辺空間をつくっていたとされています。 (note(ノート))

そして、そのせせらぎが続いた先に置かれていたのが「アイボール」です。
現在の写真を見ると、アイボールの足元から細い溝が何本も伸びています。
これは単なるデザインではなく、この場所にかつて水が流れていた時代の名残でもあるのです。

新百合ヶ丘駅南口には「滝」もあった

さらに興味深いのが、郵便局前に現在も残る構造です。
当時はペデストリアンデッキの上を流れてきた水が、デッキ上層から1階へ落ちる**「滝」**も設けられていました。資料には、現在の新百合ヶ丘郵便局前にその場所が残っていることも記されています。 (note(ノート))
つまり、現在の
イオンスタイル → 郵便局 → アイボール周辺
は、単なる建物の間の通路ではありません。
かつては、

デッキから水が落ちる

水がせせらぎとなって流れる

ベンチのある水辺を通る

「アイボール」が置かれている

という、かなり凝った駅前空間だったことが分かります。

水景施設は1982年に設置、東日本大震災後に停止

新百合ヶ丘駅南口の水景施設は1982年に設置されました。
しかし、設備の老朽化が進んでいたところに2011年の東日本大震災による破損が重なり、水の流れは停止しました。 (タウンニュース)
その後、川崎市麻生区と地域住民が施設の活用方法を検討。
2019年には、
・噴水設備は復活させない
・水路の一部をウッドデッキにする
・植栽を設ける
・人が休憩できる広場として活用する
といった改修が行われました。

画像で紹介!新百合ヶ丘駅南口のペデストリアンデッキの噴水広場の改修の様子

現在の南口を見るだけでは分かりにくいですが、地面に残る水路や構造物は、1980年代の新百合ヶ丘駅前の面影を伝えるものなのです。

新百合ヶ丘駅南口そのものが「アート作品」のように設計されていた

1980年代に整備された新百合ヶ丘駅南口には、「アイボール」以外にもアート作品が置かれました。
特に知られているのが、駅南口デッキ上にある山下恒雄さん作「ふるさとの詩」です。
地元では、その独特な形から「カマキリ像」と呼ばれているモニュメントです。1984年度に、新百合ヶ丘駅周辺特定土地区画整理事業の中で、新しい街を象徴する作品として整備されたとされています。 (タウンニュース)

新百合ヶ丘カマキリ像 新百合ヶ丘駅南口にある「カマキリのような像」の作品名は「ふるさとの詩」

駅前には、
・水をテーマにした空間
・多摩丘陵をイメージした緑
・「ふるさとの詩」
・「アイボール」

などが組み合わされていました。
当時の新百合ヶ丘は、単に駅や道路、商業施設を造るだけではなく、街全体の景観まで含めてデザインしようとしていたことがうかがえます。 (note(ノート))

約40年前から新百合ヶ丘を見続けてきた「アイボール」

何気なく通り過ぎてしまいそうな、イオン横の巨大なモニュメント。
しかし、その正体を調べてみると、
・作品名は「アイボール」
・作者は川崎市出身の彫刻家・井上麦さん
・新百合ヶ丘駅南口の街づくりとともに設置された作品
・周囲にはかつて水が流れていた
・南口全体が「水」と「緑」を意識して設計されていた
という、新百合ヶ丘の歴史につながっていました。 (note(ノート))
現在では水の流れは失われていますが、「アイボール」や水路跡などには、新百合ヶ丘が新しい街として整備され始めた1980年代のデザインが今も残っています。
新百合ヶ丘駅からイオンスタイル方面へ行く機会があれば、ぜひ少し足を止めて見てみてはいかがでしょうか。
いつも何気なく見ていた景色が、少し違って見えるかもしれません。